| かつてここには畑や牧草地が広がっていた。その痕跡がそこかしこに見える。しかし今は青々と茂った牧草も、黄金色に輝く麦畑もなく、荒涼とした荒れ地が見渡す限り続くばかりだ。 たよりない道筋を一台の馬車がいく。残された数少ない痩せた家畜に食わせる為だろうか。荷台には枯れた麦株ばかりが載せられている。御者台にいるのもくたびれた老農夫だ。 しかしその隣に座っているのは、貧しい農村に似つかわしくない人影だった。フードとマントで身を覆っているが、その端から見える鎧は磨き上げられたものだ。何も解らない農夫にさえ、魔法の力が宿っている事が解る。 相手は子供と言っていい背丈しかない。襲い掛かって身ぐるみはごうか? しかし老農夫はその不埒な考えを一瞬で否定した。フードの隙間から見える、深い清冽な藍色の瞳に射抜かれた瞬間、自分の邪な考えを見破られたような気がしたからだ。 やがて枯れ果てた草しか生えぬ丘の向こう側に領主の城が見えた。かつてそれは領民たちの拠り所だった。だが今では遠い昔の事と思える。一年ほど前にかつての領主が今の城主に倒された時、状況は一変した。それまでは周辺農村の守護者の砦であったが、今では略奪を事とする暴君の居城になっている。農地、農民を外敵から守っていた勇壮な騎士や兵士たちは皆殺され、あの城にいるのは時折思い出したように農村に襲い掛かるオークやホブゴブリンどもばかりだ。 |