ケルマディクは、かつて王国都市として『天使王国』より自治都市の特権を認められた魔術研究都市だった。穏やかなサルス川が中央を流れ、中洲にテッラムリア最大級の魔術学院マーガが鎮座し、その左右川岸に交易商人の市場や、武器、鎧、その他の道具を作る工房が広がる、いわば魔法産業都市だ。

 『天使王国』の庇護がないも同然になっても、ケルマディクは独立を保持した。魔術学院の力と、交易商人達の人脈、関係諸侯の思惑が複雑に絡み合い、ケルマディクは、その支配領域の矮小さから見れば不釣合いなほど強力な独立を保っていた。

 フードとマントで身を隠したポルメリアがたどり着いたのは、そういう街だった。

 とはいえ、彼女はここで一暴れするつもりはなかった。ケルマディクは彼女が判断するにはあまりにも複雑だ。工房の親方達のギルド、商人たちのギルド、魔術師たちのギルド、神々の神官たち、それぞれが代表を送り運営している評議会が、この街の頭脳だ。

 街の支配については『善政』と言えた。日々の暮らしに不安不満はあれども、誰かが虐げられたり、不法な収奪にあったりという事はない。少なくともポルメリアの耳に入った事はない。

 評議会はただ一点で全会一致をみていた。すなわち、ケルマディクの完全自主独立である。その為には色々と後ろぐらい陰謀にも手を染めているという噂である。だが、それで苦しんだ人々の悲鳴がポルメリアの耳に入らない限り、彼女が評議会議場に殴りこむ事はありえなかった。

top / next